平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート③

将来債権譲渡の有効性に関する判例最高裁昭和53年12月15日第二小法廷判決)

「ところで、現行医療保険制度のもとでは、診療担当者である医師の被上告人ら支払担当機関に対する診療報酬債権は毎月一定期日に一か月分づつ一括してその支払がされるものであり、その月々の支払額は、医師が通常の診療業務を継続している限り、一定額以上の安定したものであることが確実に期待されるものである。したがつて右債権は、将来生じるものであつても、それほど遠い将来のものでなければ、特段の事情のない限り、現在すでに債権発生の原因が確定し、その発生を確実に予測しうるものであるから、始期と終期を特定してその権利の範囲を確定することによつて、これを有効に譲渡することができるというべきである。」

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=64130&hanreiKbn=02

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート②

将来債権譲渡の有効性に関する判例最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決)

 「将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性については、次のように解すべきものと考える。
 (一) 債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。
 ところで、原判決は、将来発生すべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約について、一定額以上が安定して発生することが確実に期待されるそれほど遠い将来のものではないものを目的とする限りにおいて有効とすべきものとしている。しかしながら、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
 (二) もっとも、契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。
 (三) 所論引用に係る最高裁昭和五一年(オ)第四三五号同五三年一二月一五日第二小法廷判決・裁判集民事一二五号八三九頁は、契約締結後一年の間に支払担当機関から医師に対して支払われるべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約の有効性が問題とされた事案において、当該事案の事実関係の下においてはこれを肯定すべきものと判断したにとどまり、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性に関する一般的な基準を明らかにしたものとは解し難い。」

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52610&hanreiKbn=02

平成25年〔民法〕出題趣旨

 設問1のうち,小問1は,将来債権譲渡が原則として有効であることを踏まえ,担保目的でされた将来債権の譲渡契約の結果,債権譲受人が将来債権をいつの時点で取得したのかについて,動産譲渡担保・不動産譲渡担保と異なる債権譲渡担保の特性を意識しながら理論的に説明をすることができる能力を試すものである。小問2は,担保目的での将来債権譲渡がされた後に債権者・引受人間でされた免責的債務引受の効力及び対抗力に留意しつつ,譲渡債権について差押債権者が有する地位を,事実に即して論じさせるものである。また,設問2は,将来債権譲渡を目的とする契約が締結された後に譲渡債権に付された譲渡禁止特約をもって債権譲受人に対抗することができるか否かを,譲渡禁止特約に関する民法第466条第2項の理解を踏まえ,債権譲受人の地位及び債務者の地位に結び付けられた利益を考慮に入れつつ理論的に説明することができる能力を試すものである。

http://www.moj.go.jp/content/000116083.pdf (PDF)

平成25年〔民法〕問題

民法
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事実】
1.Aは,太陽光発電パネル(以下「パネル」という。)の部品を製造し販売することを事業とする株式会社である。工場設備の刷新のための資金を必要としていたAは,平成25年1月11日,Bから,利息年5%,毎月末日に元金100万円及び利息を支払うとの条件で,1200万円の融資を受けると共に,その担保として,パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって,現在有しているもの及び今後1年の間に有することとなるもの一切を,Bに譲渡した。A及びBは,融資金の返済が滞るまでは上記代金債権をAのみが取り立てることができることのほか,Aが融資金の返済を一度でも怠れば,BがAに対して通知をすることによりAの上記代金債権に係る取立権限を喪失させることができることも,併せて合意した。
2.Aは,平成25年3月1日,Cとの間で,パネルの部品を100万円で製造して納品する旨の契約を締結した。代金は同年5月14日払いとした。Aは,上記部品を製造し,同年3月12日,Cに納品した(以下,この契約に基づくAのCに対する代金債権を「甲債権」という。)。Aは,同月25日,Dとの間で,甲債権に係る債務をDが引き受け,これによりCを当該債務から免責させる旨の合意をした。
3.Aは,平成25年3月5日,Eとの間で,パネルの部品を150万円で製造して納品する旨の契約を締結した。代金は同年5月14日払いとした。Aは,上記部品を製造し,同年3月26日,Eに納品した(以下,この契約に基づくAのEに対する代金債権を「乙債権」という。)。乙債権については,Eからの要請を受けて,上記契約を締結した同月5日,AE間で譲渡禁止の特約がされた。Aは,Bに対してこの旨を同月5日到達の内容証明郵便で通知した。
4.その直後,Aは,大口取引先の倒産のあおりを受けて資金繰りに窮するようになり,平成25年4月末日に予定されていたBへの返済が滞った。
5.Aの債権者であるFは,平成25年5月1日,Aを債務者,Cを第三債務者として甲債権の差押命令を申し立て,同日,差押命令を得た。そして,その差押命令は同月2日にCに送達された。
6.Bは,平成25年5月7日,Aに対し,同年1月11日の合意に基づき取立権限を喪失させる旨を同年5月7日到達の内容証明郵便で通知した。Aは,同年5月7日,D及びEに対し,甲債権及び乙債権をBに譲渡したので,これらの債権についてはBに対して弁済されたい旨を,同月7日到達の内容証明郵便で通知した。

 

〔設問1〕
(1) 【事実】1の下線を付した契約は有効であるか否か,有効であるとしたならば,Bは甲債権をいつの時点で取得するかを検討しなさい。
(2) Cは,平成25年5月14日,Fから甲債権の支払を求められた。この場合において,Cの立場に立ち,その支払を拒絶する論拠を示しなさい。

 

〔設問2〕
 Eは,平成25年5月14日,Bから乙債権の支払を求められた。この請求に対し,Eは,【事実】3の譲渡禁止特約をもって対抗することができるか。譲渡禁止特約の意義を踏まえ,かつ,Bが乙債権を取得した時期に留意しつつ,理由を付して論じなさい。

 

http://www.moj.go.jp/content/000112696.pdf (PDF)