平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑫

 本問でまず問われているのは「その担保として,パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって,現在有しているもの及び今後1年の間に有することとなるもの一切を,Bに譲渡した。」という契約の有効性ですが、始期と終期が明確であって、一見簡単であるかのように見えるものの、実は難しい問題を含んでいます。というのも、将来債権譲渡の有効性について判断した前掲最判平成11年1月29日は、第三債務者が社会保険診療報酬支払基金一名です。しかし、本問債権譲渡担保契約では、第三債務者が誰かは特定していません。

 この点について、複数の債務者に対する多数の債権を対象とする債権譲渡の有効性に関する前掲最判平成12年4月21日では、「債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。」と判示しており、集合債権譲渡担保においては、第三債務者が特定されていなければならないかのように読めるのです。第三債務者が特定されていなければ集合債権譲渡担保契約の特定性を欠くとすれば、本問の契約は無効ということになります。

 実は、集合債権譲渡担保契約で第三債務者が特定されていなければならないかは争いがあるところです(最高裁判例解説民事編平成12年度)。前掲最判平成12年4月21日は、この点について正面から答えるものではなく、事例判例ということになるでしょう。

 このような基本書に載っていない難しい問題は、事前に知っておくことを要求しているわけではないでしょう。前掲最判平成12年4月21日は第三債務者が特定されていることを契約が特定されていることの理由としているように読めるところ、本問で第三債務者が特定されておらず、いいのかな、というところまで気づいたら高く評価されるでしょうが、この点まで気づけた人はおそらくほとんどいないでしょう。ただ、試験は一見簡単に見えて難しい問題を含んでいる場合があるから注意して読んでおくべきだ、ということは知っていて損はないと思います。そうしておくと、知っている論点だと思って飛びついて書いたら聞かれていることと違った、というミスも生じにくくなると思うのです。