平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート④

 最判平成11年1月29日はまず、「債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく」といっていますが、これは将来債権譲渡に限ったものではなく、債権譲渡一般のことであると理解できます。ただ、なぜ「特定される必要がある」のかは、「いうまでもなく」としかいっておらず、理由が書いてありません。手元の文献を見ても分かりませんでした。

 ただ、私が知る限り、実務では、契約だろうが不法行為だろうが、常に特定しているかどうかが問われますので、それらに特定性が要求されるのと同じことであろうと思われます。

 では、なぜ特定性が要求されるのか。この点については、内田民法Ⅰに、契約内容についての一般的有効要件として「確定性」が挙げられ、そこで説明がされています。受験生にとって内田民法がベストかどうかは疑問がありますが、確定性については分かりやすく説明がされています。

 「特定性」と「確定性」は同じものなのでしょうか。内田民法Ⅰの該当箇所の記述からすると、同じものであろうと思います。最判昭和53年12月15日は「確定」という言葉を使っています。ただし、私が知る限り、実務では、契約内容について「確定」という言葉は聞いたことがなく、いつも「特定」「特定」と聞いている気がします。

 では、なぜ実務上「特定」「特定」とうるさく言われるのでしょうか。一つには、強制執行になってから困るからだと思います。裁判官が特定性の問題に気づかずに判決してしまい、それに基づいて原告だった人がさあ強制執行しようとなった場合、いざ強制執行する段階になると、例えば動産引渡の強制執行をしようとしたけれど、目的物の特定性を欠いたら、何を引き渡させればいいのか分からず、執行官は困ってしまいます。結局、執行不能ということになって、判決書は紙切れになってしまいます。

 もう一つには、既判力の問題があるかと思います。ある債権について判決が確定したけど、原告が、同じような債権があると主張して訴訟提起した場合、前訴の請求権の内容が特定されていないと、後訴の請求権と重複しているのか判断ができず、実体法上は同じ債権なのに、判決が2個出てしまうことになりかねません。そうしたら、被告としてはたまったものではありません。

 話がそれてしまいました。