平成25年〔民法〕〔設問1〕(2) 答案例

 Cは、AとDとの間で甲債権について免責的債務引受けがされているから、債務を負っていないとして支払いを拒絶することが考えられる。

 前提として、債務者の関与なしにされた免責的債務引受けも有効である。債務者はこれによって利益を受けるだけであるし、債務免除は債権者の一方的意思表示でできるものだからである。

 しかし、免責的債務引受けがされるより前に、AはBに対して担保のために債権を譲渡している。設問1(2)で述べたとおり、譲渡の時点で甲債権もBに移転しているとすれば、免責的債務引受けの時点ではAは債権者ではなく、債務免除をする権限がない以上、免責的債務引受けも無効である。そうすると、Cは、甲債権について請求を拒絶できないとも考えられる。

 しかし、Fは、Aを債務者として甲債権を差し押さえたのであるから、Fが行使できるのはAを債権者とする甲債権である。甲債権の債権者がAとするならば、Aには債務免除をする権限があったということであるから、Dとした免責的債務引受けは有効である。

 以上より、Cは、免責的債務引受けがされたことを論拠として請求を拒絶することが考えられる。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1) 答案例②

甲債権を取得する時期

 動産や不動産の譲渡担保の法的性質について担保権であると考えれば、将来債権譲渡担保においても、譲渡担保実行のとき、つまりAに対して取立権限を喪失させる旨を通知した平成25年5月7日にBが甲債権の所有権を取得するとも考えられる。

 しかし、物権の対象は物であり、物とは有体物をいう(85条)ところ、債権は有体物ではないから、これを対象とする物権を観念することはできない。したがって、動産や不動産の譲渡担保の法的性質論は、債権譲渡担保における債権の移転時期とは関係がない。

 ただ、AとBは、融資金の返済が滞って取立権限を喪失させる旨の通知がされるまでAのみが債権を取り立てることができる旨合意しているのであるから、その通知があるまでは債権はAに帰属しているとも考えられる。

 しかし、AとBは、あくまで平成25年1月11日の時点で譲渡する旨合意しているのであるから、債権の移転時期は譲渡の時点であって、融資金の返済が滞って取立権限を喪失させる旨の通知がされるまでAのみが債権を取り立てることができる旨の合意は、Bに帰属した債権の一部について、Aに取立権限を付与し、取り立てた金銭のBへの引き渡しを要しないとの合意であると解するべきである。

 以上より、甲債権の移転時期も、平成25年1月11日の時点である。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1) 答案例①

契約の有効性について

 債権の譲渡は原則として有効であるが(民法466条1項本文)、譲渡された債権とそうでない債権を区別するため、目的たる債権を特定する必要がある。将来債権譲渡でも同様である。

 本問において、現在有している債権については、「パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権」として特定されていると考えられ、将来債権についても、「パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権」のうち「今後1年の間に有することとなるもの」として、譲渡されていない債権との区別が可能であるから、特定されていると考えられる。いずれも第三債務者は特定されていないものの、「パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権」であれば第三債務者が誰であるかに関わらず譲渡の目的となり、譲渡されていない債権とは区別されるから、特定されていると考える。

 以上より、契約は有効である。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑬

 将来債権譲渡担保における将来債権の移転時期については、譲渡担保設定契約時説と、債権発生時説があるようです。潮見プラクティス民法債権総論[第4版]は、譲渡担保設定契約時説に立ち、その判例として前掲最判平成19年2月15日と最判平成13年11月22日を挙げています。

 しかし、最判平成13年11月22日の最高裁判例解説を見ますと、将来債権は債権発生時に移転する、とあります。

 最判平成19年2月15日の最高裁判例解説は、判決文に「国税徴収法24条6項の解釈においては」とあることなどから、将来債権の移転時期に関する民法上の論点については判断を留保したものと解しています。

 本問は、将来債権譲渡の移転時期をきく問題ですが、基本書に十分な記載がされていないという意味で、難問であると思います。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑫

 本問でまず問われているのは「その担保として,パネルの部品の製造及び販売に係る代金債権であって,現在有しているもの及び今後1年の間に有することとなるもの一切を,Bに譲渡した。」という契約の有効性ですが、始期と終期が明確であって、一見簡単であるかのように見えるものの、実は難しい問題を含んでいます。というのも、将来債権譲渡の有効性について判断した前掲最判平成11年1月29日は、第三債務者が社会保険診療報酬支払基金一名です。しかし、本問債権譲渡担保契約では、第三債務者が誰かは特定していません。

 この点について、複数の債務者に対する多数の債権を対象とする債権譲渡の有効性に関する前掲最判平成12年4月21日では、「債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。」と判示しており、集合債権譲渡担保においては、第三債務者が特定されていなければならないかのように読めるのです。第三債務者が特定されていなければ集合債権譲渡担保契約の特定性を欠くとすれば、本問の契約は無効ということになります。

 実は、集合債権譲渡担保契約で第三債務者が特定されていなければならないかは争いがあるところです(最高裁判例解説民事編平成12年度)。前掲最判平成12年4月21日は、この点について正面から答えるものではなく、事例判例ということになるでしょう。

 このような基本書に載っていない難しい問題は、事前に知っておくことを要求しているわけではないでしょう。前掲最判平成12年4月21日は第三債務者が特定されていることを契約が特定されていることの理由としているように読めるところ、本問で第三債務者が特定されておらず、いいのかな、というところまで気づいたら高く評価されるでしょうが、この点まで気づけた人はおそらくほとんどいないでしょう。ただ、試験は一見簡単に見えて難しい問題を含んでいる場合があるから注意して読んでおくべきだ、ということは知っていて損はないと思います。そうしておくと、知っている論点だと思って飛びついて書いたら聞かれていることと違った、というミスも生じにくくなると思うのです。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑪

将来債権譲渡担保による債権移転の時期に関する最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決

「甲が乙に対する金銭債務の担保として,発生原因となる取引の種類,発生期間等で特定される甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対し担保権実行として取立ての通知をするまでは,譲渡債権の取立てを甲に許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないこととした甲,乙間の債権譲渡契約は,いわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約といわれるものの1つと解される。この場合は,既に生じ,又は将来生ずべき債権は,甲から乙に確定的に譲渡されており,ただ,甲,乙間において,乙に帰属した債権の一部について,甲に取立権限を付与し,取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである。したがって,上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,指名債権譲渡の対抗要件民法467条2項)の方法によることができるのであり,その際に,丙に対し,甲に付与された取立権限の行使への協力を依頼したとしても,第三者対抗要件の効果を妨げるものではない。」

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52292&hanreiKbn=02

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑩

複数の債務者に対する多数の債権を対象とする債権譲渡の有効性に関する最高裁平成12年4月21日第二小法廷判決

「債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。」

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52581&hanreiKbn=02

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑨

 譲渡担保としての債権譲渡には、取立権限留保型集合債権譲渡と、予約型集合債権譲渡ないし停止条件型集合債権譲渡の2つのタイプがあります(内田民法3[第3版])。

 本問は「A及びBは,融資金の返済が滞るまでは上記代金債権をAのみが取り立てることができることのほか,Aが融資金の返済を一度でも怠れば,BがAに対して通知をすることによりAの上記代金債権に係る取立権限を喪失させることができることも,併せて合意した。」とあるので、取立権限留保型集合債権譲渡です。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑧

 話は将来債権譲渡の有効性の論点に戻ってしまいますが、最高裁判例解説民事編平成11年度(上)によれば、最初期の学説では、将来債権譲渡契約の効力が比較的広く認められていたようですが、朝鮮高等法院判昭和15年5月31日が「債権発生ノ基礎タル法律関係カ既ニ存在シ且其ノ内容ノ明確ナル限リ将来ノ債権ト雖之ヲ譲渡スルニ妨ナキモノト謂フヘ」きであると判示し、学説上もこの法律的基礎説が有力になったとのことです。

 将来債権譲渡無効説という説があったかどうかは定かではありません。しかし、まだ債権が発生しておらず、存在しない以上、存在しないものを譲渡することは観念できない、との理由で将来債権譲渡を否定する考えも理論的にはありうるように思われます。そのため、債権発生の法律的基礎があればその限りで将来債権譲渡を認めていい、という説が登場したのではないでしょうか。

 ただ、現在では、将来債権譲渡が有効であることは学説上も異論はない、ということのようです。存在していないものを譲渡することはできない、という形式的な理屈は説得力がない、当事者が将来債権を譲渡するという合意をしているんだからそのとおり効力を認めていいんだ、ということなのでしょう。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑦

続いて将来債権譲渡の効力発生時期に関する最高裁平成19年2月15日第一小法廷判決

「将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約は,譲渡の目的とされる債権が特定されている限り,原則として有効なものである(最高裁平成9年(オ)第219号同11年1月29日第三小法廷判決・民集53巻1号151頁参照)。また,将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り,譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されているのであり,この場合において,譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには,譲渡担保権者は,譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に,当該債権を担保の目的で取得することができるものである。そして,前記の場合において,譲渡担保契約に係る債権の譲渡については,指名債権譲渡の対抗要件民法467条2項)の方法により第三者に対する対抗要件を具備することができるのである(最高裁平成12年(受)第194号同13年11月22日第一小法廷判決・民集55巻6号1056頁参照)。
 以上のような将来発生すべき債権に係る譲渡担保権者の法的地位にかんがみれば,国税徴収法24条6項の解釈においては,国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても,当該債権は「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当すると解するのが相当である。」

 

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=34139&hanreiKbn=02

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑥

 前掲最判平成11年1月29日に戻りますと、最判平成11年1月29日は、「右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。」といっています。「当然に左右するものではない」という言い回しからすると、債権発生の可能性の高低が将来債権譲渡契約の効力に影響があるのか、定かではありませんが。

 引き続いて、最判平成11年1月29日は、「もっとも、契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。」といっています。この部分は、「特段の事情の認められる場合には」との言い回しからすると、何か将来債権譲渡特有の無効原因を判示したかに見えますが、「公序良俗に反するなどとして」という点からすると、単に公序良俗違反(民法90条)や詐害行為取消(民法424条)などによって将来債権譲渡契約の効力が否定される場合がある、という当たり前のことをいっているに過ぎない、ということになろうと思います。

 

(公序良俗)
第90条

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

 

(詐害行為取消権)
第424条1項

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

将来債権譲渡に関する規定の創設予定

 将来債権譲渡については、民法改正に関する要綱案のたたき台として、次の案が挙がっています。

 

2 将来債権譲渡
  将来債権の譲渡について、次のような規律を設けるものとする。
 (1)  将来発生する債権(以下「将来債権」という。)は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
 (2)  将来債権の譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
 (3)  将来債権の譲渡は、民法第467条第2項に定める方法により第三者対抗要件を具備しなければ、第三者に対抗することができない。
 (4)  将来債権が譲渡され、権利行使要件が具備された場合には、その後に上記1(2)の特約がされたときであっても、債務者は、これをもって譲受人に対抗することができない。

 

そして、現状及び問題の所在として次のように説明されています。


将来発生する債権(将来債権)を譲渡することができ、債権譲渡の対抗要件の方法により対抗要件を具備することができることについては、判例上認められており、学説上も異論がないが、将来債権が厳密な意味で民法第466条第1項等における「債権」に該当するかどうかに疑義があり、現在は条文上ルールが必ずしも明確ではない。現在では、将来債権を譲渡することによって企業が資金調達をする場合のように、将来債権譲渡が広く利用されていることを考慮すると、これまでの判例法理を踏まえて、将来債権の譲渡に関するルールを条文上明確にすることが望ましいと指摘されている。」

 

法制審議会民法(債権関係)部会第83回会議(平成26年2月4日開催)

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900201.html

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(1)~(10)

法制審議会 - 民法(債権関係)部会

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(1) 平成25年9月10日

 (意思表示、代理、無効及び取消し、条件及び期限)

 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900190.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(2) 平成25年9月17日

 (多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)、保証債務、債務引受、契約の成立、第三者のためにする契約)

 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900191.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(3) 平成25年10月8日

(履行請求権等、債務不履行による損害賠償、契約の解除、危険負担、民法第536条第1項の削除の是非)

 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900192.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(4) 平成25年10月29日
 (受領(受取)遅滞、債権の目的(法定利率を除く。)、消滅時効、相殺、更改、賃貸借、不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止(民法第509条関係)、債権者の交替による更改(民法第515条・第516条関係))
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900193.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(5) 平成25年11月19日

 (保証債務、有価証券、弁済)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900194.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(6) 平成25年12月10日

 (消費貸借、使用貸借、事情変更の法理、不安の抗弁権、請負、委任)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900195.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(7) 平成26年1月14日
 (委任、雇用、寄託、法律行為総則、意思能力、債権者代位権、詐害行為取消権)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900196.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(8) 平成26年2月4日
 (債権譲渡、契約上の地位の移転、債権の目的(法定利率))
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900201.html

 

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(9) 平成26年2月25日、平成26年3月4日
 (売買、請負、贈与、契約に関する基本原則、契約交渉段階、契約の解釈、約款、寄託(消費寄託)、組合、終身定期金、和解)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900206.html

民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(10) 平成26年3月18日
 (錯誤、保証、贈与)
 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900207.html

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート⑤

 引き続いて最判平成11年1月29日は、「将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。」としています。

 ①「将来の一定期間内に発生」する債権と②「(将来の一定期間内に)弁済期が到来すべき」債権とは、一応区別することができます。例えば、債権譲渡契約後に物を販売した場合の売買代金債権は①、債権譲渡契約前に既に物は販売していたけど、売買代金の支払時期は債権譲渡後である場合は②です。本問の甲債権は①にあたります。

 最判は、「適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。」と「など」とあることからして、「右期間の始期と終期を明確にする」は例示です。したがいまして、答案で「期間の始期と終期を明確しなければならない」と書きますと、間違いとはいえませんが、判例ではない、ということになると思います。別に答案で一言一句判例の文言そのまま書かなければいけない、ということはないと思います。それでは暗記力試験になってしまいます。ただ、表現が違うと内容も異なってくる場合があるということは理解しておいた方がいいと思います。

 結局、最判のここまでの部分は「(契約が有効になるにはその内容が特定されている必要がある。)債権譲渡契約も目的とされる債権が特定されている必要がある。将来債権譲渡の場合も目的とされる債権が特定されている必要がある。」といっているだけで、「右期間の始期と終期を明確にするなどして」は例示であるということになります。

平成25年〔民法〕〔設問1〕(1)  ノート④

 最判平成11年1月29日はまず、「債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく」といっていますが、これは将来債権譲渡に限ったものではなく、債権譲渡一般のことであると理解できます。ただ、なぜ「特定される必要がある」のかは、「いうまでもなく」としかいっておらず、理由が書いてありません。手元の文献を見ても分かりませんでした。

 ただ、私が知る限り、実務では、契約だろうが不法行為だろうが、常に特定しているかどうかが問われますので、それらに特定性が要求されるのと同じことであろうと思われます。

 では、なぜ特定性が要求されるのか。この点については、内田民法Ⅰに、契約内容についての一般的有効要件として「確定性」が挙げられ、そこで説明がされています。受験生にとって内田民法がベストかどうかは疑問がありますが、確定性については分かりやすく説明がされています。

 「特定性」と「確定性」は同じものなのでしょうか。内田民法Ⅰの該当箇所の記述からすると、同じものであろうと思います。最判昭和53年12月15日は「確定」という言葉を使っています。ただし、私が知る限り、実務では、契約内容について「確定」という言葉は聞いたことがなく、いつも「特定」「特定」と聞いている気がします。

 では、なぜ実務上「特定」「特定」とうるさく言われるのでしょうか。一つには、強制執行になってから困るからだと思います。裁判官が特定性の問題に気づかずに判決してしまい、それに基づいて原告だった人がさあ強制執行しようとなった場合、いざ強制執行する段階になると、例えば動産引渡の強制執行をしようとしたけれど、目的物の特定性を欠いたら、何を引き渡させればいいのか分からず、執行官は困ってしまいます。結局、執行不能ということになって、判決書は紙切れになってしまいます。

 もう一つには、既判力の問題があるかと思います。ある債権について判決が確定したけど、原告が、同じような債権があると主張して訴訟提起した場合、前訴の請求権の内容が特定されていないと、後訴の請求権と重複しているのか判断ができず、実体法上は同じ債権なのに、判決が2個出てしまうことになりかねません。そうしたら、被告としてはたまったものではありません。

 話がそれてしまいました。